第20回 インターンをお使いになってはいかが?
パートやアルバイトのみならずSOHOや在宅勤務等、企業の中での業務とそれを遂行する人員の関係が私が社会人を始めた?年前に比べて随分変わってきていると思います。かくいう私もアジルの正社員ではなく米国の大学院生で、夏休みの間のインターンという形でアジルで勤務しています。インターンは一口で言えば大学・院生のアルバイトですが、雇用期間が短いのを除けば正社員と同等の業務を担うのが異なります。
こういった形に落ち着くまで実際に日米でインターンの職探しをして思うのですが、日本でも雇用関係の自由度はこの10年間で飛躍的に増していますが、インターンとなるとまだまだそれ程採用は進んでいないのかなと思います。日本で大学院生のインターンを採用しているのは外資系投資銀行、一部戦略コンサルティング及び製造業のマーケティング部門とかなり限定的でした。一方で米国企業では大手、中小を問わず、事業企画・計画、マーケティング、財務、IT、オペレーション、プロジェクトマネジメントと幅広い分野において日常的にインターンを利用しています。長期休暇以外でも学期間を通じたインターンや実際にカリキュラムとして企業のプロジェクトに派遣される実地研修が恒常的に利用されています。
おそらく日本でインターンがそれ程普及していないのは一つには守秘義務の問題を懸念されてのことかとは思います。これについては当然守秘義務契約が交わされる、私の通っている学部は最低でも業務経験が3年は要求されていることから守秘義務の問題についての学生の理解が進んでいる、企業側も特許情報、顧客名簿といった本当に外部に漏れて困る情報を使ったプロジェクトというものにはインターンを使わない、学生側もお金目当てというよりは卒業後の進路に向けての就職活動の一環ということで情報を外部に流出するインセンティブが少ない、といったことからこれまで大きなトラブルになっていない様です。
もう一つの普及が進まない要因としては外部や短期のプロジェクトで業務を進めていくということへの抵抗感がまだ日本ではあるのではと思っています。実際に日米でインターンや実地研修に参加して、それぞれにメリットがあるということを感じているだけに今の様に日本でインターンが普及していないのは社会的にちょっともったいないという気がしています。
実際にインターンを活用している企業では大きく分けて二つの目的を持って使っている様です。一つは卒業後の採用を睨んだ選考プロセスの一環として、もう一つは純粋に社内での人員不足を補充するというものです。インターンはあくまでもインターン期間のみの雇用契約ですので、卒業後にその企業がその学生を採用するのか、或いはその学生がその企業に進むのかについてはお互いに自由になっています。とはいえ、両者ともそうしたことを意識しながら、雇う側と雇われる側とがお互いにその個人の能力や性格がその企業の業務や文化とフィットするかをじっくり見極める期間というのが実際ですので、まさに口では言わないけれど結婚を意識しながら付き合っている恋愛関係というのがインターンと言えるでしょう。私も企業に勤めていた時は、会社を変えたこともあり、採用インタビューを受ける、実施するの両方を経験し、はしにも棒にもひっかからないという場合を除いて、幾ら会社が優れた業績を誇っていても、或いは個人として優秀であっても、採用する、される側の双方が満足できるというのは、実際に雇ってみないと分からないというのが実感です。日本でも試用期間の制度がありますが、企業側はその適用にかなり慎重にならざるを得ないこと、採用される側としてもやっぱり駄目だから辞めたというのでは今後の経歴に影響が出ること等から形骸化していることを考えると、インターンの様にお互いにリスクを限定した上で深く付き合える制度というのは非常に魅力的だと思います。
二つ目の目的は中小企業を中心に純粋に社内でリソースが不足しているから学生を活用するというものです。こうした場合無給でというのが結構あるのですが、学生側でも卒業後の就職活動において関連分野であれば職務経歴として他企業からも評価される、ベンチャー企業への就職もベンチャー企業の存在感が高いことから卒業後の進路として日本に比しかなり真剣に検討されるといったことから、需給のバランスは取れている様です。私の学部では前職はある企業でマネージャーをやっていた、ある程度の責任を持って幾つものプロジェクトを完了させたという学生は相当数いますので、こうした人材をただで使えるのであれば下手に新規に人員を採用したり、高いお金で外部コンサルタントを雇うよりもはるかに安上がりでリスクも少ないというのが採用側の判断でしょう。
ただインターンに限らず、業務委託、外部コンサルティング会社を使用する際においても、また、社員の在宅勤務を検討される際においても同じことですが、外部の人間を活用する場合や自由度の高い勤務形態では雇う側が高い管理能力を持っていないとなかなか期待された結果が得られません。雇う側が、何を、いつまでに、どういうアウトプットで、幾らの予算内でやってもらいたいのかをはっきりさせる必要があります。外部サービスを利用する場合気の効いたスタッフですとそこまで考慮しますが、これがまさに「外注さんを使うと人によって当たり外れがある」と言われるところの要因でしょう。米国ではそもそも英語が母国語でない人と共存していくのが当たり前になっている社会ですので、意思疎通において日本より細かく合意・確認を取っていくというのが自然に鍛えられています。日本ではコミュニティに内在している文脈に頼って業務遂行上の意思疎通が図られており、幾ら専門能力を持つ人員を外部から動員してもその文脈の部分が伝わらず、お互いがもどかしい思いをして終わるといった経験を採用側の多くの方がされてきたことが、日本で自由度の高い雇用関係が広がらないことに影響しているのではと思います。
そうは言っても、業務で求められるスキルが専門化する中で外部専門スタッフの活用が一般的になっている上、世代間・個人間の価値観が多様化しており、こうした今まで「気が利いている」で片付けられていた部分をコントロールするのも管理者の重要なスキルの一つになってきていると思われます。インターンの活用はそうしたスキルを有する管理者を育てる場の一つとしても使えるでしょう。
雇用側にとっても被雇用側にとっても業務とそれを遂行する人員の関係が多様化されることはより細分化されたお互いのニーズを満たすための選択肢が広がるという意味で非常に良いことだと思っています。インターンや大学での実習講座の活用もその一つの選択肢として日本でもっと普及するとお互いにメリットが享受できる上、社会的にもそうした使われていない才能を活用することにつながり有意義なことだと思います。私自身も卒業後は雇う側としてインターンや大学の実地研修生を活用していこうと考えておりますが、雇用側の皆さんも一度お試しになってははいかがでしょうか?
2004年7月
中ノ森
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