第5回 日本人のデジタル思考化?

 最近、コンサルの現場や顧客との接点でよく感じることがあります。それは「日本人のデジタル思考化」という点です。「デジタル思考」とはコンピュータリテラシーとかいう話ではなく、自分の頭の中で常に「0か1」つまり「いい」「悪い」という単純な考え方をするということです。
 企業の経営や業務を改革する支援をすることが我々のコンサルティングの仕事なのですが、その現場において最も高いハードルになるのが意識の問題です。ITの導入や何らかの改革の実行支援においてチェンジマネジメント(意識改革)という手法を多くのコンサルティング会社がかかげていますが、正に我々の仕事は顧客企業におけるマネジメントや社員の方の説得商売であるということが言えると思います。

 ちょっと具体的な例をあげてみましょう。我々の得意としているテーマとしてe-ソーシングの導入というテーマがあります。具体的には調達の現場でオークションのツールを上手く活用しましょう、ということなのですが、よくあるのはこういう会話です。

 「オークションというのは品質を重要視する我々が買っているものには適用できないのじゃないですか?」答えは「Yes」であり「No」であります。つまり購入しているもの全てがオークションを使えるか、というと「No」ですし、かといって全ての品目に使えないかというと使えるものは多い(多分運用の仕方によっては80%は適用可能)ということです。

 何か今やっていることを変えていくということは非常に難しいことです。そのためちょっとでもリスクを感じることに対する改革への抵抗は非常に大きいことが一般的に言えるでしょう。何でも「いい」「悪い」、「使える」「使えない」という単純なデジタル思考から脱せない日本人が多いのではないでしょうか?私はこういう場面で常に言う言葉は「とにかくできるところからやっていきましょう。」です。ある意味日本人が昔から得意なやり方であった現場主義であり、トライアンドエラーの世界です。「まずはやってみましょう。」戦後日本で成長を続けてきた日本の企業に共通して言える特長であり、従来であれば日本人や日本企業の成長や強さの源泉であったのではないでしょうか?

 欧米(特に米国)ではこれをリスクとメリットを定量化し、優先順位をつけて実行していくという手法でブレイクスルーしてきました。日本同様変革への抵抗はあるにも関わらずドラスチックな改革が実行できたのは、トップダウン的な改革の実行であり、デジタル思考の罠に陥らないようにリスクとメリットを分析し、最適な展開計画を立てそれを実行する能力であると思います。

 現在日本の景気の状況は決して良いものとは言えません。この日本人のデジタル思考化が企業の変革の遅さ(国も同様では)の一つの要因であるような気がしてなりません。

 もう一度基本に返って自分たちの思考法を変えてみましょう。

 「とにかくやれることからやってみましょう」


2002年9月
代表取締役社長
野町 直弘