第31回 マイブーム?歴史から学ぶ?

 人は誰しもマイブームがあると思いますが、最近の私のマイブームは、"歴史から学ぶ"です。
最近日本史など歴史に触れたことはありますか?私が日本史や世界史などを最後に勉強したのは、おそらく高校生の時だと思います。大学では歴史の勉強など全くしていないし、ましてや社会人になってからは日々の生活に追われて、過去の歴史を振り返ることすらありませんでした。学校で学んだことと言えば、"鳴くよ、うぐいす平安京"とか"いい国作ろう、鎌倉幕府"など、年号を覚えるための語呂合わせくらい。悲しいことに、今となっては学校で学んだ知識は何一つ残っていないのが現実です。

しかし、数年前ある日本史の本を読んだことがきっかけで、日本史に興味を持つようになりました。井沢元彦さんが執筆している『逆説の日本史』シリーズ(小学館)です。学校で学ぶ日本史は、縄文時代から時代別に年号やその時代の出来事を羅列して覚えるだけで、各時代の関連性、歴史上の人物の行動、宗教観や日本人の行動原理といったものを深掘りして学ぶことはなかったように思います。『逆説の日本史』シリーズでは、これまでの歴史書にありがちなように、平安時代、鎌倉時代、室町時代というように時代別に区切るのではなく、時代横断的に日本人の根本原理は何か追い求めていく歴史書になっています。『逆説の日本史』を読んで以来、歴史上有名な地方を訪ねて、旅行に行くことが多くなりました。わざわざ出雲大社を見るだけのために、島根に行ったりもしました。『逆説の日本史』のような視点で歴史を見てみると、歴史を勉強するのが面白くなりますね。日本人の根本的な行動原則がよくわかります。日本人である私の行動も、昔の日本人と変わらないんだな、ということが実感できます。是非一度『逆説の日本史』を読んで頂くことをお勧めします。


話は変わりますが、聖徳太子の17条憲法を覚えていますか?私は、聖徳太子が17条憲法を制定したことすら忘れていましたが。。。しかし実はこの17条憲法こそが、日本人の根本的な原理原則を示していると言えます。聖徳太子は、17条憲法の最初の3条で以下のように述べています。

  第1条 和を以て貴しと為す
  第2条 篤く三宝を敬え、三宝とは仏法僧なり
  第3条 詔(天皇の命令)を承りては必ず謹め。君は天なり。臣は地なり。

簡単に言えば、第1条では和の精神、第2条で仏教の教え、第3条で天皇への忠誠を述べています。このような条文は重要な内容から並べていくのが通常なので、一番大切なのは和の精神ということになります。聖徳太子は日本仏教の祖と言われているくらいなので、「一番大切なのは仏教の教えである」と言いそうなのに、なぜか「一番大切なのは和の精神である」と言っている。つまり聖徳太子は、日本人にとっては仏教の教えよりも、天皇への忠誠よりも、和の精神の方が大事であることを認識していたと言えます。聖徳太子の時代以前から、日本人の行動原則は和の精神だったのでしょう。

聖徳太子の時代の日本人も、現代の日本人も根本的な原理原則は同じなんだと思います。現代においても、このような和の精神は私たちの生活の中だけでなく、政治の世界、経済の世界でも脈々と受け継がれていると思います。1980年代の日本企業の躍進は、日本人の行動原則である和の精神がうまく働いていたからとも言えると思います。従業員同士の話し合いによる改善活動、QCサークルなどはまさに和の精神に基づく行動であり、それが日本企業躍進の原動力となっていたことは間違いありません。

しかしバブル崩壊以降今日に至るまで、一部の優良企業を除いては、かつての輝きが失われたままです。日本企業がグローバルに活動する中、米国的な資本の論理や株主の論理が入り込み、逆に和の精神がうまく機能しなくなった結果ではないでしょうか。いくら企業は株主のものだと言っても、そこで働く従業員がうまく機能しなければ企業は決してよくはなりません。単に米国的な経営スタイルを導入したからといって、すぐに企業が再生するものでもありません。もう一度日本人の根本原理である和の精神と言うものを見つめなおす必要があると思います。日本企業の再生のためには、現代の資本主義経済に和の精神をうまく融合させるような方策を考えていく必要があるように思います。その答えは、歴史から学ぶことによって得られるかもしれません。


2005年8月
大坪敦史