第6回 設計最適化と生産最適化

わたしは最初、機械設計者でした。モノ造りが好きで、自分が作ったものが店頭で販売されている。且つ、その製品が売れて市場で評価されているということに喜びを感じて市場ニーズ、過去図面、試作品、成型機、NCマシン、実験といろいろな情報を元に製品開発をおこなっていたものです。
そのころ(約10年前)はちょうど、3DCADが市場で普及し始め、コンカレントエンジニアリングというキーワードが市場のはやりでした。設計期間短縮のもとに、2次元であれば6ヶ月かかった構想設計?量産立ち上げの期間を、金型作成を含めてもたった3ヶ月で終了させようという会社からの希望(命令ではなかったのですが)を実現しようと日々、3DCADでの設計、金型メーカ訪問、工場調整といった3つの仕事を数個の新製品開発を請け負いながら回ったものです。

最初の1年間は、ともかく3Dデータをそのまま下流工程で使えるように、金型要件をすべてデータに入れることで図面作成工数を低減させ、発注時点でほぼ金型メーカの型図面もできているといった状況になりました。この1年間は3DCADのスキルの習得が中心で、まずデータをつくらなくてはというのが考えの最初にありましたね。 2年目にやって3DCADでの作業効率が上がってきて(データの流用ができるデータベースがそろってきたという点が貢献してますね)やっと生産工程合理化や、金型費用の削減というテーマを考えれる余裕が生まれてきたと思います。

そのころの失敗談がいろいろありまして、前置きは長くなりましたがその点について述べたいと思います。わたしの勤めていた企業は、そのころは製品原価の計算に製品カテゴリわけした工場管理費を、型費、材料原価、一般管理費を追加し価格などを決定していたましたので、会社からいわれていたのは型費、材料費の削減が中心でした。そのため型費を低減する努力は惜しまずといった状況でした。ともかく型費を低減し、且つデザイナーの要求、機構・機能を満足させるといった点が部門の使命で、生産工程での効率UPはあまりおおきな使命ではありませんでした。

ある数千万円する金型の開発をおこなった際に、あえて型費低減をねらうため通常であればインサート成形で作成する製品を別々の金型で作成し、後工程で接着するという設計に変更したのです。当初の光造形モデルでは問題なく組立ができたのですが製品精度のばらつきの問題で、量産時には接着工程とが必要になってしまったのです。

そのため、通常の工場管理費での計算内でおさまらないという問題が発生し、結局3 年償却の金型が1年半で終了するといった一番やってはいけないことを、過去に体験いたしました。設計開発とは、”きれいな誰でも分かる設計図面作成”をすること、”後工程(生産工程)の十分な分析と、配慮”の2つを満たさなくてはならいと痛感したものです。

その当時は生産工程の最適化と、設計コスト(初期コスト)の最適化を2つとも同時に実施してくれる”ITツール”が必要と感じました。(存在しませんが)昨今CAEツール、デジタルモックアップツールの飛躍的進歩により、最近では上記の最適化ツールが出てくる勢いですが、わたしが思うには生産工程の最適化と、設計コスト(初期コスト)の最適化の両立は、技術者の腕の見せどころです。アイデア、発想の勝負です。工法、材料、機械はめまぐるしく日々変化します。そんな外部環境をうまく取り入れて”アイデア、発想を生み出す場”で”設計最適化と生産最適化” といった2つのテーマの両立に今後もかかわっていきたいと思っております。


2002年11月
取締役
須藤 淳一