第19回 最後の出費

 人生最後の買い物はなんでしょうか? 自身にまつわる出費、という意味では「お葬式」が最後の買い物かもしれません。
一昔前まで、お葬式の話題はテレビや新聞などでもあまり取り上げられないものでした。最近は、不透明なイメージのある価格体系や、伝統にとらわれた形式が見直され、葬儀のスタイルや費用への関心の高まりとともに、関連の特集記事・番組をよく見かけるようになりました。

近年のお葬式は、(首都圏に限ると)葬儀社に依頼して行うケースがほとんどだそうです。葬儀のほぼ全てを取り仕切るわけですから、誠実な業者を選びたいところですが、「式を淡々と機械的に進められ冷たい感じがした。」「病院で紹介された葬儀社と契約し、薦められたプランに決めたが、あとから相場より高いことに気づいた。」「見積もりに載っていない費用を追加請求された。」など不満やトラブルもあるとか。短時間で決断・契約することが多く、業者側が有利に事を進めるケースがあるようですね。

しかし、不況とともに相場自体は大きく下がっています。某新聞の記事によると、バブル期の相場360万がここ数年では160万に、なんと50%以上も下がっています。自治体が葬儀業者と提携し、割安で提供する「自治体葬」の出現など、価格面では不透明⇒半透明になってきた感じです。

では、人はどんなスタイルの「お葬式」を自分の最後として思い描いているのでしょう。

「お葬式はどんな風にしたいの? 」と両親に聞いてみたところ、音楽葬、家族葬、とはっきりとした希望を持っていました。私自身は、家族と親しい友人だけの葬儀で、定番の菊ではなく洋花を飾ってもらい、棺には気に入っていた服と好物を入れてもらいたいと、相当細かいことまで考えています。

アジルの30代(私と同世代)メンバー2名に同じ質問をしたところ、「自分は参列しないから、どうでもいい。」「残った人たちが考えることだし、まだイメージがわかない。」という答え。仕事だけではなく、私生活の買い物もなかなかシビアな二人なのに、自分の葬儀に関してはさっぱりしていてちょっと意外です。

葬儀の対する”こだわり”は、年齢や性別に関係なく、「とてもこだわる人」「全然こだわらない人」にグループがはっきりと分かれるようです。

「こだわる」人向けに、お葬式のスタイルも選択肢が増えています。偲ぶ会、家族葬、生前葬、ハウスセレモニー・・・。インターネットで「葬儀社」をキーワードに検索すると、特徴あるお葬式を売りにした葬儀社がいくつもでてきます。最近の傾向は「少人数」で「ささやかに」が人気だそうです。これもバブル期の「大人数」で「大掛かりに」から大きく変化しています。

本人に明確な「お葬式」像があったとしても、家族に伝わっていないと、実現にはいたりませんね。あの世にいては、「それ、ぜんぜん違う・・・」とは言えません。

最近では、遺言のように、自身の葬儀について書き残す人が増えてきたとか。生前の希望が形になって残されると、家族も故人の思いにかなったお葬式をあげることができるわけですから、理にかなっているのではないでしょか。

では、さっそくうちの両親にも書いてもらおうと薦めると、「なんでそんなこと薦めるの???」と睨まれてしまいました。別に他意はないし、うちの両親はさばけているほうだと思っていたのに、やっぱり具体的なことはしたくない様子。「お葬式」はまだまだナイーブな話題で、現実に意思や希望を残してもらうことはなかなか難しいな、と実感しました。


2004年6月
野尻