2016.8.29号
「調達購買改革を巡る誤解 その1」

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        「目指せ!購買改革!!」     
      〜調達購買改革最前線〜
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☆今週のメッセージ「調達購買改革を巡る誤解 その1」
☆2016年下期の「調達・購買人材向けトレーニングセミナー」の日程のお知らせ
☆「VoPM(Voice of Purchasing Manager)レポートvol.2」発行のお知らせ

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■ 今週のメッセージ「調達購買改革を巡る誤解 その1」
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その1.「集中購買」=「サプライヤ集約」=「コスト削減」の誤解

最近調達購買関連でお客様や身の回りのバイヤーの方々と話をしている時に違和感
を感じることがあります。それは、言葉が一人歩きしているように感じるのです。
まるで新聞や雑誌、Web記事の見出しのよう。

例えば「『集中購買』推進で『コスト削減』」とか、「『サプライヤ集約』で半減し『コスト
削減』」とか、「『マルチソース』で『リスクマネジメント、BCPを推進』」などなど。

多くのケースでこれらのキーワードは目的(後者)と手段(前者)を示しています。しかし
この目的と手段ですが、よく考えてみると実は因果関係がないことも少なくありません。
もっといえば手段が目的化してしまい、目的が不明確なことも多いようです。

「どこそこの企業がこういうこと(例えばサプライヤ集約)をして大幅なコスト削減を実現
したようだから、うちでも検討してみなさい」という経営陣からの指示で調達購買部門が
動きだしました、とか。このような企業の多くは経営陣や調達購買本部長には調達購買
部門の経験がなかったりします。

今後何回かに渡ってこのような調達購買改革を巡る誤解についていくつかのテーマを
取り上げてご説明していきましょう。

まず一回目の今回は『1.「集中購買」=「サプライヤ集約」=「コスト削減」の誤解』について
取上げます。

2007年7月に「集中購買は何故進まないのか」というレポートを執筆しましたが、
http://www.agile-associates.com/2007/07/post_20.html
その中で集中購買の定義について私どもはこのように定義しました。

「集中購買とは?「購買機能のうち少なくとも契約業務がある部門に集約されている
状態であり、全社もしくはグループ企業を含む量的な集約を前提に、より有利な契約
を行い、またその契約条件を適用させることを目的にした活動」。

これをもう少し簡単に言ってしまうと、契約業務をある部門に集約させて量的な集約を
図りボリュームメリットを出しましょう、ということです。

集中購買が何故進まないのか、例えば本社調達本部が集中契約したにも関わらず
各事業部や工場ではその契約を無視し、既存の取引先に価格を下げさせて発注を
続けるなどが失敗事例の典型になりますし、それを防ぐためには、トップダウンでの
ルール徹底や事業部主導の緩やかな集中購買の仕組みがポイントとなりますよ、等
は上記のレポートで詳細を書かせていただいております。

一方で「サプライヤ集約」の定義は言葉通り、支払をしているサプライヤの口座を減らし
ましょう、またできればこの活動でボリュームメリットを引出そうということでしょう。

このように集中購買もサプライヤ集約もボリュームメリットを活かしてコスト削減を実現
しましょう、というのが目的になります。しかし、このボリュームメリットというのがクセモノ
なのです。ここでは、このボリュームメリットについてもうちょっと深く考えてみましょう。

ボリュームメリットとは要するに多く買うことでコスト削減を実現しましょう、ということです
が、例えば全く同じモノをたくさん購入(生産)すればサプライヤの生産コストは下がり
ます。しかし、これは金型などを仕様・図面に基づき製作するカスタマイズ品に関して
言えることです。金型などの準固定費は生産量が増えれば増える程1個当たりのコスト
は薄まります。また生産効率も習熟されるため、生産コストも下がるでしょう。一方で
汎用品はどうでしょうか。汎用品は生産規模によります。現状の生産規模が100あって
それがある一社のボリュームが増えることで110になればコストは下がるでしょう。しかし
100から101になったとしても殆どコストは下がりません。
違うモノでも作り方が同じようなカスタム品(例えばプラスチック射出成形品)などは生産
コストの大きい部分を設備加工費が占めるので、総生産量が増えれば設備の稼働率が
高まりその分コストは下がりやすくなります。

このように購入するモノの種類や作り方によって、また個別企業の工場や設備の稼働
状況によってもボリュームメリットが出て生産コストが下がるモノとそうでないモノがある
のです。

そうは言っても沢山買うと言えば安くしてくれるだろう、というご意見もあると思いますが、
それはそれで理由があります。この場合、サプライヤ集約などがいい例になりますが、
ある品目(群)の取引サプライヤを10社から5社にしますと1社当たりの売上は平均2倍
になります。これらのサプライヤがこのバイヤー企業に対する売上依存度が高ければ
高いほどサプライヤ企業の売上高の増加率は高くなります。売上が増加するということ
は固定費が増えなければ売上から変動費を指しひいたものが収益の増加です。
あくまでも固定費が増えなければですが、この場合、サプライヤの集約などによる売上
の増加でサプライヤの収益が向上します。この場合にはサプライヤの販売価格を値下
げしてくれという交渉が成りたちます。
しかし気をつけなければならないのは、このケースはあくまでもサプライヤの収益を
買い手企業に還元してください、ということであり、純粋に生産コストが下がっている訳
ではないということ。

そもそも自社が発注金額を増やしたところでサプライヤの売上増加に貢献できるか
どうかも個別企業によって異なりますし、売上が増えれば追加的な投資や人員などの
固定費の増加も予想されますので、イロイロなモノをまとめて買えばコストが下がるとは
言い難いでしょう。

そうすると同じモノを今まではバラでいろんなサプライヤから買っていました、それを
集めて同じモノを同じサプライヤから購入しましょう、というのがサプライヤのコスト削減
にもつながる手法となりますが、こういう機会は非常に限定的であることが理解できます。

このように考えると集中購買は初期のころは効果が出やすい活動と言えるでしょう。
例えば同じモノを買っているのにサプライヤが分散している場合にはメリットが出やすい。
またチェンジコスト(サプライヤ切り替えにかかるコスト)が低いモノの方がコスト削減効果
が出やすくなります。何故ならチェンジコストが低い場合には現状購入しているモノを含む
全ての契約に関して多事業所の契約を集中できるからです。
一方でサプライヤの切り替えによって金型の新規製作が必要になるなどチェンジコストが
高い品目は現状購入品についてはサプライヤの切り替えが難しくなり、新規案件から
サプライヤ間で競争させましょう、ということになります。ですから集中購買やサプライヤの
集約を行ってもコスト削減効果は出にくいです。

チェンジコストが低いモノも集中購買実施の初期は効果は出やすいですが、何度も
サプライヤの切替えを行うことは考え難いし、一度削減された価格から追加で何度も
コスト削減がでできるとは考えにくいでしょう。

このように集中購買を続けていても継続的にボリュームメリットが出続けることは考え難い
ということなのです。だからと言って集中購買をやめるかというと、それはまた、違った議論
になります。集中購買集中契約を行うことによる様々なメリットが他にもあるからです。

しかし集中購買を続けていればコスト削減が継続的にできるというのは幻想。何故なら、
サプライヤのコストが下がリ続けない限りコスト削減は有限だからです。

次にサプライヤ集約ですが、定義を読んでも「集中購買」=「サプライヤ集約」でないことは
明確です。サプライヤ集約は「集中購買」や「競争化」を図ることであくまでも結果的に
「サプライヤが集約されていた」ということになると考えるのがよいでしょう。

サプライヤ集約とコスト削減については、先ほどもふれましたが、サプライヤが集約される
ことで1社当たりの発注金額が大幅に増え、売上が増えれば、固定費が薄まり、あくまでも
収益還元という形でボリュームメリットを享受することは可能です。しかしこのような機会に
つながらないことも多いでしょう。もっと言えばサプライヤの集約自体が難しいです。
例えばチェンジコストが高い場合、新規案件から集約せざるを得ません。またサプライヤ
集約をしたくても地域性が強く結果的に集約できないこともあります。繰り返しになります
がサプライヤ集約は競争の結果にしかすぎません。競争した結果、強いサプライヤ2社に
集約されました、というのが定石なのです。

一方でサプライヤ集約の目的をモノのコスト(単価)削減ではなく業務コスト削減を目的と
しているケースもあります。所謂口座数を減らすことで管理コストを削減していきましょう、
ということです。管理コストの測定は非常に難しいという点はあるものの、これはこれで
ありでしょう。
しかし、業務コスト削減を目的としたサプライヤ集約であれば別のアプローチをとる必要
があります。例えばトップダウンでヘッド(発注金額の多い企業)を残しテール(発注金額
の少ない企業)部分を切り取る、とか、商社は商社でまとめる、とかメーカー直接では
なく商社経由の取引にする、とか、メーカーとの取引であれば代替品の有無から集約する
か否かの判断をする、などです。いずれにしてもこの場合はかなりの力技が必要になり
ますし、現場主導で動かなければ様々なリスクが残ってしまいます。

このように「集中購買」=「サプライヤ集約」=「コスト削減」と厳密な意味で繋がらないこと
は理解していただけたでしょう。集中購買を進めているのに何故サプライヤ集約が進んで
いないのか、サプライヤ集約を進めているのに中々すすまないのは何故なのか、集中購買
やサプライヤ集約を進めているにも関わらずコスト削減が進まないのは何故か、という
疑問に対してこのような課題設定自体に誤解が含まれていることが理解できます。

次回はその2.「サプライヤ評価」=「サプライヤマネジメントの誤解」について述べていく
予定です。


当メルマガでご意見、ご質問、ご要望などございましたら
info-ag@agile-associates.comまでご連絡ください。
遅くなるかもしれませんが、必ず私(野町)からご連絡させていただきます。
よろしくお願い申し上げます。

(野町 直弘)
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■ 「調達・購買人材向けトレーニングセミナー」日程のお知らせ
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2016年下期(9月-2017/3月)の「調達・購買トレーニング・セミナー」の開催日程を
お知らせいたします。
http://www.agile-associates.com/2016/08/20162016920173.html
お早目のお申し込みをお待ちしております。

【基礎セミナー】
  『調達・購買業務基礎』
      2016年  9月15日(木)
      2016年 11月18日(金)
      2017年  3月17日(金)    
  お申込・詳細はこちら
  http://www.agile-associates.com/train/train.html
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   購買担当者としての心構えから技法・手法の基礎を学べます!」
     
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     2017年 1月20日(金)
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詳細はトレーニング・セミナーページまで
  http://www.agile-associates.com/train/train.html

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  『調達・購買人材向け交渉力』
     2016年 8月25日(木)
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     2016年 11月10日(木)
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     2016年12月15日(木)
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  『調達・購買部門のファンダメンタルスキル』
  ご要望により新しいプログラムを作りました。
     2017年 2月10日(金)
  お申込・詳細はこちら
  http://www.agile-associates.com/train/train.html
 
  『コスト削減手法と戦略ソーシング』
     2017年 2月16日(木)
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  『経費削減・間接材購買業務改革』
     2016年 9月 8日(木)
     2017年 3月 9日(木)
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  http://www.agile-associates.com/train/train.html

詳細はトレーニング・セミナーページまで

会場は全て東京23区内(新宿または東京駅近辺)を予定しています。

ぜひともご参加ご検討ください。

どのようなセミナーが自社や自社のバイヤーに向いているか、不明な方はお問合せください。
お問合せ先はこちら
info-ag@agile-associates.com

企業の個別研修もお引き受けします。
ご依頼、ご質問等々は、次のメールアドレスまで!
info-ag@agile-associates.com

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■ 「VoPM(Voice of Purchasing Manager)レポート vol.2」発行のお知らせ
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「VoPMレポート vol.1」に引き続き「VoPmレポート vol.2」-2016年上期版-を発行
いたしました。

ダウンロード(無償)はこちら
http://www.agile-associates.com/2016/08/vol23_vopm_vol2_2016.html

当レポートは各業界・企業の調達購買マネジャー(PM)による市況動向や予測、景気
動向などについて討議し、それを発信していくものです。それにより各企業の企業経営者
や調達購買担当者に対して現場感のある情報提供を行い役立ててもらうことを目的として
います。

背景としましては現状の経済環境や市況動向の混沌とした状況です。昨今の経済環境や
購買・調達にかかる市況動向などは現状とても混沌とした状況になっています。
特に景況感につきましては各国、各企業によっても景況判断はまだら模様であり、状況が
異なっています。

こういう環境下、調達購買人材には情報収集力・分析力やその情報をタイムリーに伝える
ことが一層求められている状況です。また、単に調達購買人材だけでなく、経営レベルでの
生産拠点の国内回帰など重要な意思決定も求められており、そのための情報収集・分析力
は一層求められています。この意思決定を間違えてしまうと企業の中長期的な競争力に
大きな差がつくような状況となってるのです。

今回も各業種・企業から6人のPM(パーチェシングマネジャー)に集まってもらい市況及び
景況判断について討議をしてもらい、それを集約しレポート作成しました。

ダウンロード(無償)はこちら
http://www.agile-associates.com/2016/08/vol23_vopm_vol2_2016.html


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