第43回 工場監査のススメ

最近大きな話題となっている「ギョーザ中毒事件」・・・食の安全が脅かされたことから、我々に与えたショックは大きかったわけですが、この事件から自分(購買担当経験者)は“製造工場の工場監査に問題は無かったのか”と考えていました。そこで今回は中国での工場監査について書いてみようと思います。

自分がメーカーの購買担当だった頃、中国各地の工場を回っては工場監査、現場指導、品質改善・・・と海外出張を繰り返していた時期がありました。最初のうちは海外ということもあって見るものすべてが新鮮で、それこそ工場のすべてを見てやろうと時間をかけて見回っていたものですが、いつの頃からか工場監査には“コツ”があるのだと悟り、また多くの工場長に師事して頂いたことで、効率良く工場監査を行うことが出来るようになったと思っています。


<工場監査のポイント>
・入退室管理の盲点を探せ
 実際に中国の工場を視察された方であればご経験があるでしょうが、まずは警備員の対応に驚かれることでしょう(格好の良い敬礼をしており、非常に心強く感じる方も多いようです)。セキュリティチェックを担当する警備員は、工場内部に不審なものを持ち込ませないための重要な役割を担っています。
 工場長以下、工場幹部と一緒に工場を視察していると「これほどまでに厳重な管理を行っているので私物持ち込みや金型などの盗難など絶対に発生しません・・・」と説明しているのですが(当然そのように言うでしょうが)、このような大名行列の際にセキュリティの甘さをさらけ出すことはほとんどないといって良いですので、ここでの見るべきポイントは商品搬出口のセキュリティ体制となります。脇が甘い工場では工員通用口のチェックがメインとなってしまい、搬出口から堂々と建物内部に入ることが出来てしまう場合もありますので見ておきたい箇所です。

・倉庫の空調設備
 資材倉庫や製品倉庫などに設置されている空調設備はチェックしておきましょう。とある国営企業の工場(広東省)で見かけたのですが、夏になると窓を開けて扇風機を回しているだけという倉庫がありました。室内気温も40度を超すほどの異常値でしたが、特に問題だったのが湿度です、いくら製造ラインをしっかりと管理しても資材倉庫がこの状態では歩留まりは良くなりませんよね(実際に他社より不良率が高かった)。
それと原材料混入防止策やFIFO(先入れ先出し)については実際に台帳やSOPなどを見て評価しますが、見て分からない箇所があればドンドン担当者に確認しましょう(台帳確認時には文字が綺麗に書かれているかまでチェックして下さい)。

・製造ラインでは不良品箱を確認
 ラインで発生した不良品は「不良品箱(赤い箱の場合が多い)」と呼ばれる箱に投入しますが、この管理体制(不良箇所を明確にした状態で投入しているか、不良原因毎に種別されているか、不良箇所の原因分析を行って次ロットの製造にフィードバックさせているかなど)を把握するだけでも工場全体の良し悪しがみえてくるものです。
 それと工程毎に作業手順書が掲示されていますが(工員の前に吊るされています)、これは作業内容が一瞬で判断できるように作成されているか確認しましょう(文章よりも絵で説明してあるほうが分かりやすいですよね)。また工具を使用している場合は校正管理台帳の確認を忘れずに。

・ISO9001取得済、でOK?
 「我が社はISO9001を取得しており?」という説明をほとんどの工場で耳にしますが(取引条件にISO9001取得必須としている企業が多いので仕方の無いことですが)、工員に対してどれほどISO教育を行っているか確認し、また実際に聞いてみましょう(ISO専任部門だけが活動している、つまり更新審査のためだけに努力しているケースも見受けられます)。
 一時期はどこの工場に行っても同じ種類のリングファイルを各部門にずらっと並べていたものですが、おそらくコンサルタント会社が指導したことをそのまま実践していたのでしょう(中身を拝見すると非常に綺麗なものでした=読まれた形跡がほとんどなかった)。

・本当の良さは工場監査では分からない
 工場の良し悪しというのは「不具合発生時の対処方法」でも判断できます。すなわち、「不良品を出荷した場合にはミスを認め、不眠不休で改修し、改善策を検討してくれる工場」・・・これが本当の良さなのではないでしょうか(ミスは発生するものです、どんな場合でも)。
同じ人間として尊重しあい、対等の目線でミッションに取り組む姿勢を持った工場を探し出すことが出来れば、きっと皆さんの工場監査は成功したと言えるでしょう。


2008年2月
中村 哲也